「あつき、英語のノート貸して!」
休み時間に、亮太が満面の笑みを浮かべてそう言った。
「私が予習してあるとは限らないよ?」
「あつきが予習サボるわけないじゃん!」
何故か胸を張って亮太は言った。
まあ、亮太にノートを貸したいってのもあって、予習はしてありますが。
私はカバンから英語のノートを取り出して亮太に手渡した。
「今回あんまり自信ないからね?」
「サンキュ!全然おっけー☆」
ノートを受け取ると、亮太は急いで自分の席に戻っていった。
私のノートを写す作業に入るのだろう。
「石原さん、俺も見せてもらってもいい?」
必死な様子の亮太を眺めていたら、急に声を掛けられた。
驚いて振り向くと、佐藤くんが立っていた。
亮太の好きそうな爽やかな笑顔を浮かべている。
少し日焼けした顔や短い髪が、誠実そうな印象を与える。
“好青年”という言葉がぴったり当てはまるような人だ。
「佐藤くんに見せられるような内容でもないけど‥‥」
苦笑して私が答えると、佐藤くんも困ったように頭を掻いて、
「俺、今回分からない文いくつかあってさ。白河から、石原さんは英語が得意って聞いたから。」
と言った。
亮太め‥‥。
私は英語が好きってだけで、別に得意なわけでは‥‥‥。
まあ、1番成績がいいのは英語だけど。
「私も自信ないけど、それでもいいなら。」
「はは。ありがとう。」
そう言って佐藤くんは、亮太の席へ歩いて行った。
ふむ。笑うとますます爽やかだな。
悪い印象を全く受けない。
これならモテるわけだ。
亮太、頑張れ‥‥‥‥。
佐藤くんが亮太の席の隣りに椅子を用意して、同じ机に自分のノートを広げた。
彼が何事か話すと、亮太はたちまち嬉しそうに、私のノートを2人の間に置いた。
私のノートが、2人の距離を縮めたようだ。
心の距離ではなく、実際の距離だが。
亮太の力になれたことの嬉しさと、少しやるせなさを感じた。
やっぱり私は、亮太と佐藤くんに上手くいってほしくない。
それなのに亮太に協力して‥‥‥。
これって、亮太を騙しているようなものなのかな‥‥。
2人の様子を見ているのも辛くなってきた。
いかんいかん。
あまり暗い顔をすると、誰かに気づかれてしまう。