――うそ……。だって彼はいつもスーツを着て、とてもパティシエには……。
そのパティシエはバスでこっそり見つめているあの人だった。
「こんばんは。」
彼は微笑みながらそう言った。
初めて見た彼のその表情は、一瞬にして私の全てを奪っていった。
「こんばんは~。パティシエさんですよね?新作どれも美味しそうで選べないです~。」
ゆきが彼に言葉を返す。
「いつも、ありがとうございます。本日はお時間ございますか?よろしければ、こちらで召し上がって行かれませんか?」
奥のイートインスペースを手で指し示しながらにこやかに言う彼にゆきが二つ返事ですぐさま応えた。

