匠さんはそう言うが、私はどうも気が引けて奢られることを拒む。


「いえ…でも……。」


食い下がる私に匠さんはこう提案した。


「それでは、これからも試作のケーキを食べていただく…そのバイト料でどうでしょう?」


匠さんに会える口実ができたと思うと心が踊る。


「分かりました。」


本当は人にお金を払わせることなどしたくはなかったが、匠さんに会えるという誘惑に打ち勝つことなど出来なかった。


匠さんは満足したように微笑むと、今度は困ったような顔で話す。


「今、今朝待ち合わせをしたバス停に向かっているのですが大丈夫ですか?すみません、新井さんの家の場所を知らないもので。」