北欧の森は澄んで薄霧の
むこうには妖精が遊んでる
みたいに木々の揺れる音がする
足音は自分の存在しか
浮き立たせなくこの場じゃ
ひとりステップを踏んで
霧の向こうの観客に笑顔を振りまく

『ねぇ こんなんじゃまだ終われないよね』 

シルクハットの彼は多少揺れる前髪
を首を揺らしてどける仕草で
意味不明なことを話だす

『落ち着いてたってごまかしたって
幻想みたくてお姫様じゃ泥濡れ
雑巾ふく作業ももしかして気に入って
る?』

「うざい」

『やめてよ、僕はきみのため…
あ…もしかしてキミって信じてるの
幼い頃の宝石詰め込んだ木箱みたいな
開いて輝く石ころみたいに
いつか輝ける?なんて…そのために
木箱を空けてくれる王子様捜し?
大変そうだね~』

「…」

無音の森なのに彼女の耳には
おなさいころの音が声が波をたてて
押し寄せる
潰されないように目を開きシルクハットの彼をみるが霧のながで前髪を気にしながら彼もまた彼女の声が聞こえてるのか

「私は知ってる
私の目的はここにはないと
でも、まだ終わらせない
きっとまだ帰っちゃだめなんだ」

彼女の荒い声に身を引かせた
シルクハットはちょっと上をみて
顔を本の位置に戻すと彼女の
灰色の目を見た

『アリス…君はもうこの世界を救ったんだ 夢はここで終わりそれじゃダメなんだろ』

「私は『わたしは夢の世界のお姫様
になる、どんな女の子もこんな世界
で成功するの だから私も戦った
んだからお姫様になってもいいでしょ
このまま帰ったらただの夢なの』


薄いライトブルーのエプロン
ワンピースに薄い金髪内巻き
のアリスはじっと自分の足元をみていた
あのひ落ちた穴はきっと
自分にも意味があった
握りしめた手の爪が自分の手の平
を傷つける

「戦いは終わり 私はこの国
の一番になるのだから…」

憐れんだシルクハットはアリスに背
を向ける

霧はとけ 森の緑が濃くなって
いくにつれ風景が鮮やかにさえる
妖精もいないしっかりと空が見えた
アリスはゆっくりと顔をあげる
彼女はいま丘の上にいるのだ
霧がなくなったとき
アリスの灰色の目には荒野 崩れた
建物 無くなった木、花 むざんにも
トランプ兵の残骸 生きてる者は
いないだろう そこにあるのは
死んだ街


『君は確かにこの国を救った
この国の悪のハートの女王を殺した』



「ねぇ…帽子屋」

『なにかな』

「お姫様にはお城と馬車とドレス」

『………生き残ったのは僕らだけだよ』

「そうだよね」
アリスは帽子屋を抜かして丘の最上部にたった




「お姫様になりたかっただけなのに」


彼女の姿は消えた
丘から消えた




『これは夢だよアリス…しねないんだよ』