―やっぱり、ちゃんと顔を見ておけば良かった。
やっぱり怖いのだ。
彼が幸せな家庭を
築いているという事実を
認めるのが…。
―ある日曜日、私は
友達の美里に誘われ、
ショッピングモールに
買い物に来ていた。
――そしたら――…
――彼がいたのだ。
いや、彼に似ている人…
であると願いたい。
金原広道。
私が想いをよせている人。
彼(似ている人かもしれないが…)は小さな子どもを抱っこしていて、隣には美人な女の人――奥さんだろう――がいた。
一瞬見ただけで、
私の奥底にあるなにかが
ざわっと動き出した気がした。
恐らく彼でないかと
思われるあの男性を見た
瞬間に、忘れかけていた
彼の顔が鮮明に浮かび
上がってきた。
私は反射的に目をそらした。
――もしも本当に彼だったら――。
怖かった。
彼が幸せであってほしい。
でも怖かった。
あの人が、あんなに幸せそうな
家庭を持っているという事実を、認めるのが怖かった。
私は諦めたはずだった。
やっぱり認めたくないのだ。
―でもやっぱりちゃんと
顔を見て、彼だと認めて
おくべきだった。
そうしたら、もっと
ちゃんと諦められたかもしれない。
まだ、もしかしたら彼に
似ている人かもしれないと、
期待している自分がいる。
彼はまだ結婚してないかも
しれないと期待している
自分がいる。
―馬鹿みたいだ。
結婚していようが
していまいが、関係ないのに。
本当に馬鹿みたい…。