「――…お願いだからっ!…俺の過去の事は、もうほっといてく――!」


――パンッ…


乾いた音が政宗の言葉を遮った。

いきなりの事に目を見開く。


手加減してくれたのだろう、そこまで痛くはなかったが、思いきり右頬を叩かれた。


母親には…一度も叩かれたことなかったな…。



「…あたしには関係ない?…そりゃ関係ないでしょうよ。でもあたしの目も見てくれないまま、一人で過去を閉じ込めといても何も変わんないじゃない。」


「……!」

怒り出したかと思うと、愛の両目から涙が止めどなく溢れ出してきた。


「話してよ…一人で抱え込まないで話してよ!」


愛が身を乗り出してきて押し倒されたと思うと、腕を高々とあげてきた。


「…っっ!」


殴られる…と思った刹那。


「本当に情けない。過去に囚われている貴方は本当に情けないっ」

愛は、自分の顔を俺の胸に押し付け、涙で俺の着物を濡らしていった。


「誰が貴方を気持ち悪いと言おうが、あたしは貴方を気持ち悪いとは思わない。あたしは貴方の味方だから…!」




嗚呼…

…誰からなどとも関係なく、誰でもいいからその言葉を言って欲しかった。



大切な母親に――…。

弟でも、家臣でもいいから…。

誰か、誰か――…。



「っ…ぅぁあ…っ…」


過去に囚われた、この隻眼の奥から飛び立つように、何かがふわりと抜けていく。


右の手の平で目元を覆い、泣く。

押し倒されている状態であり、目の前に女子がいるという状態である中にも関わらず、泣き続けた。


「く…ぅう…っ」


隻眼の奥にある、今ではもう無くなった右目から、涙が零れ落ちた気がした――。