◇ 政宗side ◇
昨夜、俺が愛を追い出してしまってから、愛とは一言も口を聞いていない。
朝餉に遅れたのは、たまたまだったようだが…、やはり怒らせてしまったのだろうか…。
朝餉には、いつも楽しみにしている好物の卵焼きを口にしても、今日は何故か味がしなかった。
「はぁ…」
元はと言えば俺が悪い。
…何で愛を見て、“あの女”の事を思い出してしまったんだろう。
小十郎からは、愛に話があるから先に失礼すると言われたが…。
頭の中がもやもやしてくる。
私室で、ふぅ、と一息ついたとき。
「失礼します、政宗様」
小十郎の声でない別の家臣の声がした。
「…どうした」
「ある人から文を頂いてきました」
ある人…?
「…使者の主からだな。誰からだ」
あえて、まだ「入ってこい」とは言わず机に広げてあった書類などを片付けていく。
「は、北条の氏政公からで」
…北条…?
一体…俺に何の用がある?
「あぁ。入れ」
「は、失礼いたしまする」
その男は、襖をそっと開けてから、手紙を両手で差し出してきた。
「かたじけない。下がってよい」
「はっ」
手紙を受けとるなり、下がるように命令すると、すっと下がっていった。
…見ない顔だったが…奴は誰だ?
新しくきた者か?
むっとしつつも、いつもの場所に行って読むことにした。
…いつもの場所というのは、ここの城に囲まれた、池のある広い庭のこと。
幼いころからよくここの庭にきてたから、落ち着く。
…そういえば、悲しいことがあったときも怒られて逃げてきたときも、この場所にきたんだったかな。
