――…
10分程して、あたしの顔から女中さんの手が離れた。
「さぁ、できましたよ」
目を開くと、目の前にはにっこりと微笑んだ女中さんがいた。
「はい、どうぞ」
手に渡されたのは、手鏡。
「ありがとうございます」
鏡にうつった自分は、自分だと思えないほど綺麗になっていた。
女性って…化粧すると変わりすぎて怖い。
女中さんの終了の声を聞いたのか、小十郎が襖から声をかけた。
「できたか」
「はい」
あたしは鏡の奥の自分を見つめていると、ついつい顔がほころんだ。
「では、開ける」
「どうぞ」
あたしが喋らない代わりに、女中さんと小十郎が話を交わしている。
すうっと開けた小十郎は遂に目を見開くと顔を真っ赤にした。
「…かたじけない」
「いえ、こんな可愛らしい姫様の化粧はやり甲斐がありますわ」
そんな、照れるよ…。
一人照れていると、小十郎は顔を合わせず、立て、と手を出してきた。
あたしは躊躇うことなくその手を握って立ち上がる。
その光景を微笑ましくみていた女中も立ち上がった。
「さて、では私はお先に失礼致しまする」
「あ、あの」
あたしは、女中さんが襖から先に出ていこうとしたところを止めた。
「はい?」
「その…名前をお聞きしてもいいですか?」
こんなに綺麗にしてくれた女中さんの名前だけでも覚えておきたいと、少し照れ臭くなりながらも聞いた。
小十郎は、あたしをちらりと見て、少々驚きながらも黙っていた。
