「愛、入るぞ」
と、瞬時真後ろで聞こえた。
「ぎゃっ!」
ここに来るまでに音を一切立てないで来た小十郎にいきなり喋りかけられて、心臓がバクバクしてます。
ていうか、変な声出たし。
「何とも色気のない声だ」
小十郎は外からそう言いながら、静かにすっと襖を開けた。
小十郎、女子に向かってそんな事言うな!
一人心の中で反論しながら、じっと入ってくる小十郎を見ていた。
しかし、今度は小十郎一人だけではなく、誰かを連れてきた様子。
「愛姫様、失礼致します」
そうっと部屋に入ってきた30代位の綺麗な女性。
この人今、愛“姫”様って言ったよね?
“姫”って要らなくない?
いや、“様”も要らないか。
複雑な感情を持ちながら、どうぞ、と会釈した。
小十郎は女性を中に入れさせると、再び出ていこうとした。
「小十郎は何処に行くの?」
すると、小十郎ははぁ、とため息をついて睨んできた。
「白粉をやるのに何故ここに俺がいなければならぬのだ」
あ、なるほど。
小十郎はわざわざ女中さんを呼びにいってくれたんだ。
小十郎の優しさにはいつも何処か分からないところがある。
では失敬、と言って小十郎は退室していった。
女中さんは、いろいろ入ったカゴを畳の上に置くと、「座してください」と微笑んできた。
優しそうな人でよかった…。
言われるがまま、はい、と一言言ってゆっくり座った。
「では、目を瞑っていただけますか」
「はい」
そして、そっと目を閉じた瞬間、女中さんの力が発揮されたのだった――。
