着終わったのと同時にタイミングよく、小十郎が話しかけてきた。
「帯の巻き方はわかるのか」
「いや…わかんないです」
いつの間にか敬語になってるし…。
「…とりあえず合っているか分からないが、俺の言う通りにやってみろ」
え…小十郎着付けできるの?
「あ、はい」
勿論すんなりと従うことにした。
「まず。そこに太めの帯があるだろう」
小十郎が持ってきてくれたものには、着物の他に太めの濃いピンク色の帯と細い白色の帯が用意されていた。
「濃いピンク色の帯だよね?」
「ピンク…とはどのような色だ?一応言うが、つつじ色の帯ぞ」
あ、ここではまだピンク色って言葉使わないのか。
しかし、太い帯と言われればこの濃いピンク色の帯しかない。
一人で納得しながら巻いていく。
――しかし。
「…あ」
一つ…用意してもらうのを忘れた“もの”に、愛は気付いた。
…“物”と言うよりも“者”であるが。
「ねぇ、小十郎」
「今度はどうした」
小十郎は、先ほどより少し大きい声で返答してきた。
「…後ろに手が…届きません」
「…」
「…」
「…はぁ」
…そう。
実は女中を予め連れてきていなかったため、この場に手伝ってくれる人がいなかった。
きっとその時の小十郎はまさかの事態に、やってしまったと顔を歪ませていたに違いない。
「そなたは一人で着れぬのか!」
あたしも、珍しく小十郎もどうしようかと慌てていた。
