初めて小十郎の笑った顔をみたあたしはキュンとしつつ、ひょこっとさされた方を見る。
何とも着飾りのない普通の襖。
…こんなとこに“あの”伊達政宗がいるの?
小十郎は無言で襖を開き、入れ、と入口を開け、あたしは息をのんだ。
「政宗様はこれよりまだ上にいる。許可を得てくる故そなたはここにいておけ。」
小十郎はそれだけを言うと、部屋を出ていこうとする。
やっぱり伊達政宗はもっと上の階にいるんだ。
そりゃ…いきなりどこからきた者かもわからないあたしを連れて、押し掛けるのもいけないしね。
部屋を見渡そうと振り返ろうとすると、行った筈の小十郎が「それと」と付け加えてこっちを見る。
「一応言うが俺はそなたをまだ信じていない。決して逃げようなどという馬鹿な事を考えるな。もしこの部屋から出たようなら間者と見なす。いいな」
それだけを言うと、襖をすっと閉めて、音たてず走っていった。
…あたしだってここに来たくて来た訳じゃないのに…。
あたしは、入って広い座敷を見回す。
畳の良い匂いを嗅ぎながら、部屋の隅に腰をおろし暫しの間小十郎を待つことにした。
