小十郎の背中を見つめ、聞こえないくらい小さい声で“ありがと”と呟くと、手拭いで涙を拭う。
絶対に帰るから。
決して歴史を変えるようなことをしてはいけない、と自分に言い聞かせる。
緩んだ顔を引き締めると、門番さんに頭をさげ軽く会釈し、中に入っていく小十郎の背中を追う。
城の中はとても綺麗で、なぜかほぼ女の人の割合がとても高い。
今から“あの”伊達政宗に会うと思うと、今すぐにでもこんな所から逃げていきたい。
…でもそんなこと、夢じゃないかもしれないこの状況でできる筈がない。
もしそんなことをしたら、次に目を開けたときはあの世にいるんだろうなと妙に鳥肌が立った。
小十郎の背中を見つめながら、どれだけ歩いただろうか。
「ぶっ」
急に立ち止まった小十郎の背中に思いきりぶつかる。
すると、小十郎が少し口角を上げながらこちらを見て顎で前の扉をさす。
「ふっ、なんて情けない声だ。着いたぞ」
