煙を溜息と共に吐き出してから、気持ちを抑えるように続けた。

「それが翔にとってどれほど辛い事だったか…。
真実を知れば、おまえはさくらさんに会いたがる。
だがそれがどんなに残酷な事かを知っていたから、翔はおまえが自らさくらさんの事を受け入れる事が出来るようになるまでは決して本当の事を告げなかったんだ。」

「……後悔するつもりは無い。」

紫煙が空気の層となって、部屋の中に広がっていく。

まるでこの部屋を流れる時間のように、煙はゆっくりと部屋に満ちていった。



「彼女は龍也を捨てた訳でも蒸発した訳でも無い。」



一臣さんの声はとても静かだった。



「彼女は…忘れてしまったんだよ、龍也。」



ザワリと本能がその言葉の意味を拒絶する。



「おまえの事も翔の事も。家族で過ごした幸せな日々も全て。」



静寂が…耳に痛かった。