梅雨入り前の湿り気をおびた空気が上昇した気温にねっとりと纏わりつく中、バイクのエンジン音ととも切り裂く風が僅かに汗ばんだ身体の熱を奪い取っていく。

経験した事の無いスピード感で緑の美しい山道を駆け上がるその感覚に、心臓はスピード以上にバクバクと早鐘を打っている。

カーブでバイクの車体が傾ぐ度に、龍也先輩の背中にギュッと縋りつき、小さく悲鳴を上げてしまう自分が情けないけれど…。

自分の今ある状況がまだ把握しきれていないのだからしょうがないよね?

あたし…何でこんな山の中にバイクで来ているんだろう?

ううん、それ以前に何で龍也先輩がバイクであたしを連れ出したりしているんだろう?

大体龍也先輩がバイクを持っている事も、免許を持っている事も知らなかったんだから。