レアの気持ちとは裏腹に、時間は過ぎていく。
7時なんて来なければいいのに。
ブリジットは、先ほどアパートから出てってしまった。
なんでも他のお友達と約束があるのだそうだ。
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃい。レア、可愛い」
すっかりドレスアップさせられてしまったレアを見て、リュックが素直に感想を述べた。
レアは礼を言うと、履きなれないパンプスを履きながら溜息をついた。
「そんなにむくれてたら、可愛くないよ」
「ばか」
レアは苦笑いすると、アパートを後にした。
秋の夜風は驚くほど冷たい。
まだ人通りの多い街を歩きながら、レアは駅前にあるレストランを目指した。
田舎を離れてから、もう十年以上の月日が経っている。
相手も自分も、お互いの事がわからないのではないか。
そうであってほしいと、どこかで思う。
今日待ち合わせの場所に相手がいなければいい。
そんなことを考えているうちに、呆気なくレストランの前に着いてしまった。
時刻は7時少し前。
レアは店の前で立ち止まると、腕時計の時間を確認して通りを眺めた。
向かい側には、いつかリュックと昼食を取ったカフェがある。
あの日以来、何故か行きにくくて行っていない。
そんなことを考えていると、声を掛けられた。
「…レア?」
涼しげな声が耳を掠める。
レアは振り返ると、首をかしげた。
見覚えのない、背の高い男性がレアを見下ろしていた。
レアはあまり背が高い方ではないから、自然と彼を見上げる形になる。
綺麗な赤毛の、儚げなまなざし。
「…クレール?」
「よかった、レアあんまり変わってない」
屈託のない笑顔で話しかけられ、レアの望み通りにいかなかったことに心の中で落胆しつつ。
レアはにこりと微笑む事しかできなかった。
店内に入ると、普段入った事もない立派な内装にレアは一瞬立ちくらみを覚えた。
「久しぶりだね」
クレールは子供の頃よりも逞しくなっていた。
面影は赤毛と瞳くらいで、後はレアの記憶の中の彼を綺麗に塗り替えていく。
「子供の頃以来ね。元気だった?」
「僕は相変わらずだよ。レアは?」
「私も」
取り留めのない会話をしつつ、レアは時計をそっと見た。
一向に時は進んでくれず、レアは小さく溜息をつく。


