Un chat du bonheur

「お友達と会うの?」

リュックが暢気に尋ねてきた。
レアはリュックを振り返ると、頷いた。

「なんか、そうみたい。面倒くさいなぁ…」

「そういわないの。楽しんできたらいいじゃない。恋も、したらいいのに」

リュックの言葉が、レアの心をぎしっと軋ませた。
何故だろう、目の前の彼は笑っているはずなのに、どこか寂しそうに見える。

「…あなたは、平気なの?」

「何が?」

どんな答えを想像していたのだろう。
どんな言葉を望んでいたのだろう。

ついさっき、「違う」と否定したのは自分だったはずだ。

レアの心の中が、ざわざわと鳴いた。
初めて自覚した気持ち。




―…私は、リュックのこと……。




言葉にすることは、躊躇われた。
言葉にすることで、この生活が壊れてしまう。
そんな想像が脳裏を掠めて、それ以上唇が動かない。


「お待たせ、レア!」

沈黙を破ったのは、電話を掛けてきたらしいブリジットによって破られた。
レアははっと顔を上げると、ブリジットの事を見つめた。

「今夜7時に、駅前のレストランで待ってるって!ちゃんと行ってくるのよ、レア」

「え、ちょっと待ってよ…あなた一緒じゃないの?!」

「どうして一緒じゃなきゃいけないのよ。私はちょっと用事があるし、あなたはクレールとディナーしてきなさいよ」

レアは途方に暮れてしまった。
駅前のレストランといえば、そこそこ高級なお店だったと記憶している。
そんな店に着ていく服など持っていないし、第一、久しぶりに会う幼馴染と満足に会話をする自信もなかった。


何よりも、気が進まない。


「もう、レアったら。どうせ服どうしよう、とか思っているんでしょ?安心して、ちゃんと揃えてあるわ」

何故、こうもブリジットは気がまわってしまうんだろう。
レアの期待を裏切り、どうやら「舞踏会」に行かされるシンデレラの様だ。


「…はぁ。わかったわよ。約束破るのも悪いから、行くけど。リュック、そういう事だから、ご飯なんだけど…」

「大丈夫だよ、レア。フェリクスもいるし、俺明日早いから多分先に寝てると思うけど…」

「ごめんね」

「うん」

短い会話。
いつもなら、何も心が騒ぐ事もないだろう会話。
何故だか、それがとても痛い。