やっぱり、という顔でレアは猫ではない方のフェリクスを見つめた。
薄々そんな気はしていたのだ。
元々、フェリクスの名前はそれではない。

レアとしても、彼の本当の名前を呼んであげたかった。
ただ、長い間フェリクスと呼んでいたこともあり、どこか気恥ずかしさがあったのは事実。

何かきっかけさえあれば―…それが、今だということだ。


「…いい名前だと思うよ、リュック」

レアが意を決してそう言葉にすると、フェリクス―…いや、リュックが嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう、レア」

そう言葉に出す彼が嬉しそうで、レアは同じ様に微笑んだ。
少しだけ気恥ずかしいが、口に出してしまえばどうという事はない。
あっさりとレアの心をさらっていくリュックが、レアにとっては少しだけ眩しかった。


「にゃあ」

二人が煩くしていたからか、子猫のフェリクスがとことことゲージの中から出てきた。
よろよろと歩きながらレアの傍までやってくると、小さな身体を摺り寄せてもう一度小さな声で鳴いた。
レアは嬉しそうに子猫のフェリクスを抱き上げると、ふわふわの毛に頬擦りした。

「ふふ…あなたそっくりね」

「俺そんなに小さくないよ」

「もう、そういう事じゃないわよ」

二人でくすくすと笑い合うと、子猫も嬉しそうににゃあと鳴いた。


新しく増えた小さな家族を抱きしめて、その日は二人と一匹、狭いベッドで遅くまでおしゃべりをした。
少しだけ一歩を踏み出せた事が嬉しくて、レアはリュックとフェリクスを抱きしめた。


そっくりな一人と一匹は、まるでレアを取り合う様に擦り寄ってくるとまたレアがころころと笑う。


明日はきっと、もっといい日になるはずだと彼は言う。
レアも、そうだと思う。

彼がいれば、レアはきっと何度でも顔を上げて歩いてけると。
繋いだ手を離さないように、レアはそっと瞳を閉じた。


蒸し暑い夏の夜―…小さな幸せの話。





end