灰色の空から、今にも雨粒が落ちてきそうだ―…



空と同じ灰色の街で、彼女はふと足を止めた。
街角に打ち捨てられた廃材の影で、“猫”を拾った。


色のない街。


その街で、唯一つ輝いていたもの。






『Felix』






 重たい瞼をふと開くと、コーヒーのいい香りが鼻腔をくすぐった。
朝。そう感じるよりも早く、開いた眼に強烈な太陽の光が映りこむ。

その眩しさに忌々しさすら覚えつつ、彼女はゆっくりと身体を起こした。

いつの間にベッドに横になったんだろう。

そう考え至る前に、隣に感じる暖かな感触に視線をさ迷わせる。


 とくん、と心臓が高鳴った。

目に飛び込んできたのは、毛布に殆ど埋もれるようにして潜り込んでいる男。
毛布とシーツの隙間から、綺麗な金色の“毛並み”が覗いていた。



 そして思い出す、昨日のこと。


―…そう、“猫”を拾った。


彼女はそこまで考え至り、のそりとベッドから這い出た。
自分で入れたものではないコーヒーを注ぐと、それにゆっくりと口をつけながら彼を観察する。

規則正しい寝息。
どうやら彼が淹れたらしいコーヒー。


少しだけ薄いその味が、何故か切ない。