佳乃は昇進の理由が聞けると、じっと耳を傾ける。

「あれ、以前から役員会議で話題になってたんだ。
君のいる企画運営には、ほとんど部長が居ないし、課長に誰も就任していない。
だから、主任である君が、いつまでも嫌な役回りを背負っている。」

嫌な役回りである事は、否定できない。
主任の肩書しかないのに、我が物顔で部署内を取り仕切っていたのだから。

「本当は君を部長にするという話もあった。君の能力は、皆認めているから。」

「・・・ありがとうございます。」

認められるのは素直にうれしかった。
社長や部長達が、自分の事をそこまで考えていてくれるのも。

「でもね、いきなり部長と言うのも、周りがうるさいのではと思った。
だったら順当に課長に就任してもらおうという事になってね。部署変更に伴い、君も昇進。
誰も文句は言わないはずだ。」

「しかし、私は・・・!」

社長の目が、ふと鋭くなる。
それ以上言葉を続ける事が出来ず、佳乃は黙って目を合わせる。

「昇進に、変更はない。
仕事の内容は変わらないだろうし、七海君もサポートについている。
忙しくなるだろうが、君なら出来るよ。」

優しい口調だがきっぱりと、反論は聞かないと言わんばかりに、言い切られる。
出来る、出来ないの問題ではない。

心の準備がまだなのに。