「あの人、傷付いたわなぁ・・・」

「?」

小さくつぶやいた言葉の意味は、目の前の鈍感な恋人に届かない。

いや、届かなくていい。
なんとか自分の中で消化しなければ。

「俺、アカンわ~・・・」

グラスを置いて、ベッドに倒れ込む。
今日はこのまま寝てしまいたい気分だ。

セッテは目を閉じる。

別れ際の佳乃の顔が、まぶたに浮かんだ。
最後の頼みも聞けず、名前も言えなかった自分は、彼女に悲しそうな笑顔をさせてしまった。
それなのに、自分の幸せを願ってくれた佳乃に、出来る事はすでにない。
心からの謝罪も感謝も、直接伝えることは出来ないのだから。

「・・・アホやな、俺。」

つぶやいても、時間は元には戻らない。
願う事で戻るのだったら、何度でも願うのに。