secret name ~猫と私~

そう思ったら、セッテの手は勝手に、佳乃の細い手首をつかんでいた。
素肌の冷たさが、直に手に伝わる。

「離してくれる?」

「いやや。」

「どうして?」

「きちんと、話さなアカン。」

「もう、これ以上話す事はないわ。」

セッテの手を振り払い、佳乃は再び歩き出す。
拒絶されても、彼女の数歩後ろを着いていかなければ。

「今日の夕飯、いらないから。明日正式に社長に話しておきます。だから出勤しなくていいわよ。」

重なった足音を、最後にしたくない。
佳乃の側での仕事は、毎日が充実していた。
振り返らずに話す佳乃の背中が、震えている。
もちろん、寒さなどでは無い。

「今までありがとう。」

もっと、もっと違う、終わり方があったはずなのに。

「ノーヴェさんと、お幸せに。」

外回り中の会話を思い出す。
ノーヴェの事を聞かれ、思わずうれしくなって色々話してしまったが、どんな気分で聞いていたのだろう。