彼女はそれ以上何も言ってはくれず、セッテの横を通り抜けていく。
1つにまとめられた長い髪が、ふわりと揺れてから遠ざかった。
それと同時に、周りのざわめきが耳に入ってくる。

にぎやかな通りの、楽しそうな人々の話し声。
それに反した二人の感情だったが、割りきって仕事をするべきか。
まだ、今日は契約が残っているはずだから、最後まで職務に忠実でありたい。

慌てて追いかけるも、佳乃からの言葉はなく、セッテも話しかけられなかった。
何故だか彼女のパンプスのヒールの微かな音が、やけに耳に残る。

解約の理由を聞けず、釈然としない気持ちを抱えたまま、セッテは佳乃と目的地である百貨店の自動ドアを通り抜けた。