セッテの仕事は、飼い主のプライベートにまで踏み込まなければいけないので、出来るだけ砕けて、だが近付き過ぎないように、自分なりに細心の注意を払ってきたつもりだ。
今まではそれで問題が無かった。

佳乃は会社から出ると、急に立ち止まって、セッテの方を向いた。

「私の問題だから、関係の無い事よ。今日は帰って。飲んで帰るから。」

そう言って、佳乃はセッテに背を向けて足早に歩き出す。
低いヒールのパンプスだったから、歩きやすくて助かった。
その場に残されたセッテは、呆然と彼女の背中を見送る事しかできなかった。