鮮やかなその手つきに反して、表情は冴えない。

「・・・そうね。」

帰ってくるはずの人間が帰ってこなかったら、何か事故でも遭ったのかと心配になるのは当たり前だ。

「あんまり言ったらあかんのやけど、俺ら寮でな。誰が帰っとらんかなん、すぐ分かる。せやから心配やったんや。」

それで今朝から様子がおかしかったのかと、佳乃は納得する。だが、セッテの心配のしかたは、過剰な気がした。

「そんであのコーヒーは、俺が変やったから、高村さんへの謝罪と、心配させた俺への謝罪やろな。高村さんに謝らなあかんのは、俺やけど。」

「そういうこと・・・確かに貴方の様子はいつもと違ったけど、迷惑はかけられてないわ。」

「あいつなりの気の使い方やろな。とにかく、ほんま今日はすいませんでした。」

手を止め、目を合わせてから、セッテは頭を下げた。
話し終えると、セッテはどこか優しげな表情になった。
まるで、手のかかる子だと笑う、親のように。

「寮、だったのね。」

「ここだけの話にしとってや。」

秘密の共有のようで、少し心が高鳴る。

しかし、高鳴った胸の真ん中には、セッテとノーヴェの関係を気にする自分が居た。