『誰も反抗せんかったっちゅーことは、キミの言った事が間違っとらんからや。』

反論出来ないのは、香里が言ったことが間違いではないから。

黙り込んだ佳乃を、香里は黙ってじっと見ていた。
誰の事を思っているのかなど明白で、それを邪魔する気にもなれない。
猫を飼うという表現がいやだったから、雇うにしようと決めたのに。
一番彼を“猫”としてしか見ようとしなかったのは、自分だった。

セッテは、人間だ。
人間で、男性で、佳乃のそばに居る。

「私が・・・」

酔ったせいだけではない、顔の熱。

「恋?」

自問自答のように、つぶやく。

「だと、思うよ。」

答えてくれたのは、自分では無く、友人で。
認めてしまえば、少しだけ胸の痛みがおさまったような気がした。

「でも、まだ会って1カ月経ってないのに?」

自分の気持ちにも、香里にも。
少しだけ反抗したくてそう言えば、盛大な溜め息を返される。

「好きになるのに、過ごした時間は関係ないでしょ。一目惚れ、否定する気?」

「そっか・・・そう、よね・・・」

まだ、認めたくない気持ちはある。
その葛藤が見えたのか、香里は苦笑して、それ以上セッテの事には突っ込んでこなかった。