マーレは本を返しに図書館へ向かっていた。


メリーゼルにも小さいが図書館と呼べるものがある。


どうやって本を集めたのかは、図書館の館長のバルトおじさんしか知らない。


しかしマーレはそんなことは気にしなかった。


栗色の腰まで届きそうな髪を揺らし、鼻歌を口ずさみながら歩いていた。


「バルトおじさん、いますかー」


図書館の窓口で声をかけてみたが、返事がない。


きっとまた奥の書棚にいるに違いない。


窓口にいないときは大体声の届かない程奥にある書棚で本を漁っている。


マーレは書棚に向かった。


するとガサゴソと物音がしてきたので、音のする方へ歩いていき、また声をかけた。


「バルトおじさーん!」


今度は反応があった。くぐもった声が聞こえたような気がしたのでマーレはちょっと待った。


やがて髪を乱したままのバルトおじさんが出てきた。


「やあマーレ」


「5日ぶりです」


「そうか、マーレはあの本を5日で読んでしまったのか」


「とっても面白くて、夢中になって読んだので」


マーレが借りていたのは、ある作家の短編集だった。


マーレにはお気に入りの作家がいて、バルトおじさんに新しい本が入ったと聞くとすぐに読み始める。


その作家の書く小説はみな暖かい気持ちになれ、すぅっと頭の中に染み込むような内容で初めて読んだ時から虜になった。


バルトおじさんにその本を手渡した。


「いやいや、それでも5日とは…早いな」


「大好きなので!」


「だが残念だな。君に新しく貸せる本は今はまだないんだ。一週間くらいしたらあると思うからそれまで待っててくれ」


「分かりました、ありがとうございます!」


お礼を言ってマーレは図書館を出た。