「──…分かったか?玄関から見て右側面の、警備が比較的手薄な此所を先行隊が攻めて持たせてある爆薬で通路を確保する事、それが成功しなければ作戦は既に不可能になる。そして爆薬が使えなくなる前にやるのなら…、爆薬が到達する一ヵ月後から二日間の間だ。」


「あと一ヵ月…、長い様で短い期間だな。命が賭けられた戦いだ…一ヵ月で死の覚悟をしろって事か。」


死の覚悟がどれだけ辛い事だろうか。
これが明日・明後日に決行されるとしたなら、恐怖を切り捨てて、死に物狂いで行けるかも知れない。
しかし、この一ヵ月という期間は友人や恋人、家族との別れの時間、再会の約束、そして…自分自身に与えられた死という未だかつて無い恐怖を、乗り越えて戦いに備えなければならない時間。


この期間はウェンの考えでは、逃げる時間でもあった。


確かに、国を取り戻すのは大事な事だ。


しかし、いざ抗争を目の前にすれば、誰もが恐怖を感じるのは分かり切った事であり、意志も歪む事もある。


だから、この一ヵ月の間に逃げ出して欲しかった。
恐怖に怯えた体は、戦場では重い岩の様に動かずに的にされるだけになる。


無駄死にだけはさせたくない…。


一人でも多く、生きて国を取り戻したい。


甘い理想を脳裏に浮かべながら、ウェンは天井を見上げた。