「遅いぜ蓮哉。何処で道草食ってたんだ?」


蓮哉が向かう頃には晃が既に待ち侘びた様子で壁に寄掛かって、不機嫌そうな瞳で蓮哉を睨み付ける。
「悪いな。」と一言紡ぐ蓮哉も機嫌は良いものとは言えず、互いに口数少なく地下の世界へ降りて行った。


「蓮哉。俺は書類を届けに行くから医務室行ってろよ。死なれても困るしな?」


「ああ、悪いな。」


本部にと着くと直ぐに晃は書類を片手に持ち、蓮哉に言葉を掛けるも機嫌の悪さは直らないまま、表情の険しいまま静流の待つ司令官室に向かい歩き出す。
その背中を見る事もなく、蓮哉も背中を向けて足早に医務室への通路を走り出した。


擦れ違う仲間の視線は少女に確実に釘付けになり、見覚えのない少女に首を傾げて問う者も中には居たが、蓮哉の耳には言葉は聞こえずに自らの背中で息を絶えようとしている少女の身ばかりを気にし、医務室へノックもせずに中へと入る。


「ちょっとー、ノック位しなさいよ。」


「遥香さん急患宜しくお願いします。状態は肩を銃弾で撃ち抜かれ、出血が酷く危険な状態です。」


「え?もう!いきなり入って来るかと思えば。早くベットに寝かせて。」


医務室の医務長である五月女遥香(さおとめ・はるか)は予告のない扉を開け放つ音に驚き、不機嫌さを露に振り向くも、そんな事より遥かに重い事情をぶつけられて椅子から立ち上がり、振動で僅かに落ちた眼鏡を中指で軽く押し上げながら、蓮哉に指示を出した。