だけど、ここで言っておかなければならないことがいくつかある。

わたしのことを、さくらが腐女子だからと軽蔑するような、狭い度量の持ち主だと見くびるのは時期尚早。

なぜなら、わたしの方が腐女子レベルで言えば確実に上なのだから。

慎ましやか愛で、決して表に表すことなく。わたしとさくらは、この点に関しては戦場における盟友のごとき強固な信頼関係を築き上げている。

「そんなことより!!」

自らの彼氏との別れ話を「そんなこと」と形容して、さくらは目を輝かせる。

「新刊、買った?!」

「買った、買った。相変わらずいいコンビだよね。本当に主人公可愛すぎる」

女子の間で絶大なる人気を誇る執事漫画。

一般女子と腐女子の楽しみ方の違いはどうであれ、人気なことに間違いはない。


「私、本当に結婚したい」

執事と。

うっとりと呟くさくら。

そんなさくらを見ながら、わたしはコーヒーに口をつけながら思う。

さくらは、気づいてないだけだ。

彼女の歴代彼氏たちは、みんなさくら命!!と言わんばかりの惚れっぷり。
執事どころの騒ぎではない。

みんなさくらに尽くしていたのに、彼女はあっさりと手綱を離す。

最もらしい理由を、最もらしい声音に乗せて。

だけど、理由はいつも同じで単純明快。

単に彼女がつまらなくなったからだ。

これでは執事も泣くだろう。

「このドS女王さまめ」

「それほどでも」

照れたように微笑む。

どこに照れる要素がある。

だけどこれがわたし、橘梨香と片桐さくらの他愛のない日常。

観察者と女王さまのティータイム。

これはそんな日常と、恋いの物語。