今日、松原さんと過ごした時間、過ごした景色は、全部雅城に言えない、秘密の時間。
不思議なほど、罪悪感に打ちのめされていないわたしは……どうかしちゃったんだろうか。
送ってくれている帰り道の車内は、さっきキスを交わしたのが嘘のような、またいつもの雰囲気に戻っていた。
「この道いいよね。
海沿いってそれだけで気持ちいいけど、オレはこのノスタルジックな景色がなんとも言えずたまらないんだ。」
この辺り一帯はひなびた漁村という感じで、潮で錆びたトタン屋根が目立つ小さな小屋や、その軒先につるされている網が、一昔前のような雰囲気を醸し出している。
少し先には今日行ってきた水族館が出来たくらいで、他はあまり特徴のない田舎道。
田舎育ちではないわたしでも、なんだか懐かしいというような気分に浸ってしまうから不思議だ。
「オレの彼女になったら、いろんなとこ連れて行かれるよ。
性格上、じぃっとしていられないんだ。覚悟しといてね。」
そうは言ってもきっと松原さんなら、彼女のことを考えて気にしながらのドライブだよね。
小さな気遣いは、本当に心地よくって、女の子なら誰だって幸せな気分になるだろう。
……こんな松原さんを知れば知るほど、今まで恋が叶ったことがないというのが不思議でたまらない。
目をつぶると、潮風が鼻先をふわりとくすぐった。

