魅惑のくちびる


「次に!意外な一面を持っている人、なんですが。実はこれ、なんとワタクシ・広瀬が受賞致しました!!

はい、みなさん、拍手―!」


広瀬くんが促すと同時に、広がる静寂。

カンペが出ているのかと思われるほど、みんなが一斉に黙り込んだ。

こういう時の統率力ってすごい。

「お前にどんな意外性があるって言うんだよ!」

大北課長の厳しいつっこみ。

「うーん、意見としてはですね、『お花を飾っていた姿を見た』……ああ、オレんチは花屋だからですね、時々花を持ってきます。

他には、『細い身体なのにいつもよく食べてる』……そうですね、オレは牛丼は3杯いけますから」

広瀬くんって淡々としている。あたふたしないところがいつもすごいなって思っているんだ。


「お前なんかの話、おもしろくねーわ!とっとと、次進め!」


男性社員からの野次が飛ぶ。ああ。広瀬くん……かわいそうに。

でも広瀬くんはそんな役回りを楽しそうに請け負っている。

「じゃあ、皆さんに殺されないウチに次、行きます!」

そう言って、ちょっと大げさに蝶ネクタイを締め直すまねをしてみせた。