魅惑のくちびる


後ろには……落ち着かない様子の、雅城の姿が目に入る。

「ランチに一緒に行く人って……大塚さんのこと?」

「うん。別に知らない仲じゃないし、いいだろう?」

松原さんは近くの定食屋を指定すると、つったったままの雅城に向かって早く行こうと促した。


「最近どうだ。忙しいみたいだけど。」

松原さんの横に座った雅城は、気付かれないように時々わたしの顔を覗き込んでいるのがわかる。

わたしは見つめ返すわけにもいかず、メニューをみたり店内の様子を見るふりをしてごまかした。

「あぁ。まぁ相変わらずだな。少し仕事は増えたけど、大したことないよ。」

運ばれてきたミックスフライにソースを垂らしながら、雅城が答えた。


わたしはこの先、聞かないといけない会話の行く先にびくびくしていた。

どうか、時間切れで松原さんがあの話を切り出せないまま、ランチが終わりますように――。