あれこれ考えていたら、手元の作業がなかなか進んでいないことに気付く。

急に焦りだしたわたしはパチン、と力いっぱいはさみを動かすと、紙切れが勢いよく宙に飛んだ。


「アハハ、すげーや。璃音さんがキャッチしてる!

……やっぱ魅惑のくちびるなんだぁ、紙切れまで吸い込まれてら。」

広瀬くんがわたしの口元を指さして笑っている。

――小さいピンクの破片は、わたしの下唇にぺったりとくっついていた。


家までの帰り道で、桜の花びらが今と同じように唇にくっついた時、わたしはドキドキした気持ちでいっぱいだったな……。

思い出すと、そのときの心境がこみ上げてくるようで思わず目をつぶった。




「もう。グロスのせいだってば……!」


笑い転げる広瀬くんを横目に、あの時と同じようにピンクの破片を引き離していると、デスクの方から視線を感じ、そちらの方向に目をやった。


わたしたちの会話を聞いていたのか、松原さんがこちらを見ながら笑っている。


わたしが照れくさそうに笑い返すと


――松原さんは、唇をトントンと二回人差し指で叩いて見せ、いたずらっぽく笑った。