出社した梶原さんが、激しく鋭いまなざしを向けながらこちらへ歩いてくるのが目に入った。

「今日こそ松原さんとの話、聞かせて貰うわよー」

あれ以来、隙あらば尋ねてくる梶原さんを交わすのは本当に大変なんだ。

でも、今日からはそんな心配もない――。


「今まで、もったいぶって申し訳なかったんですけど……松原さんとは本当に何でもないですよ。

ただの上司と部下ですから!」

「えーっ!……また嘘つくわけー? 話は振り出しに戻っちゃうわけー??」

眉を上につり上げて大げさに怒って見せたけど……今度の今度はホントの話だ。


不満そうな顔をする梶原さんの横をすり抜け、広瀬くんが普段より大きめの花束をわたしに見せた。

「おはようございます!

っていうかちょっとこれ……見て下さい、母ちゃんの朝から張り切りぶりを。

今日のはちょっと大きすぎて、さすがのオレでも恥ずかしかったっすよ。」


ボリュームのある、ピンクのあじさいは、広瀬くんの顔を隠してしまうほどだった。

何ごとも動じなさそうな広瀬くんでも、スーツ姿にこれは、少し勇気が要りそうだ。

すごいなーと驚きながら、梶原さんが花束の一つを広瀬くんから受け取って抱えた。