「オレさ、璃音を困らせるつもりはないって最初から言ってたと思うけど。

だから今も無理を言うつもりはないし、安心して。

すぐに、璃音を忘れることはできないけど、かわいそうだと労られる方がもっと辛いから、普通に振る舞ってよ。

今日を境にもう、璃音って呼び方も以前のようにちゃん付けに戻すし、会社でも今までと何一つ変わらないから」

「ありがとう。わたし……瞬からたくさんのもの貰ったよ。

ずっと大事にする。瞬から教えて貰ったことも、瞬と過ごした時間も」

「オレもだよ。璃音から幸せをたくさん貰った。本当に、ありがとうな。」


二人の関係に終わりを告げる会話が進んでゆく。

わずかな時間とは言え、愛し合った二人の最後の時間は、意外なほどあっさりとしたものだった。


こうして休日を二人で過ごすのも最後、助手席に座るのも最後、海辺のこの道を颯爽と走るのも最後……。

切ない気持ちはこみ上げてくるけれど、不思議と涙らしきものはこみあげてこない。

瞬に寄せた思いに、決して嘘はなかったはずなのに。


それに気付いたわたしは、罪悪感に似た少し気まずい苦味がこみあげて、感情のない人形みたいだと自分を責めることしかできなかった。