魅惑のくちびる


冷めた紅茶が、やけに苦く感じる。

瞬もきっと同じに思っているだろう。


「北野との一件の後、とうとうオレは気持ちを打ち明けた。

田上が、そろそろ北野に告白したいってオレに相談を持ちかけてきた日に、『オレじゃ駄目なのか?』って……。


田上の答えは「ごめん。北野じゃなくちゃ駄目なんだ」って、一言だけだった。


その数日後、田上は北野に告白した。

それ以来、オレは北野とも田上とも交流が途絶えがちになってしまったよ」


もはや、瞬に掛ける言葉なんてどこにもない。

わたしは何を言ったらいいかわからず、静かに床を見つめるだけだ。




ただ、一つだけ、糸がほぐれてわかったことがあった。

なんで雅城があんなにも、瞬とわたしのことに目くじらを立てていたのか……


それは、この過去があったからこそなんだ。