魅惑のくちびる


「楽しかったよ。

飲んで、北野とオレが会社の愚痴を言ってると、そいつが笑いで話を別の方向にそらしてくれるんだ。

十分に話を聞いてくれた後だからストレスもたまらないし、腹抱えて笑うことが何よりストレス発散なんだって実感したよ。」

「瞬と北野さん、そのころはよく一緒に遊んでたんだね」

二人は、あまり一緒に行動しているイメージがなかったから少し驚いた。

同期だというのは勿論知っているけど、雅城から、松原という言葉をあまり聞いたことがない。

だから瞬がランチに雅城を誘った時、わたしはいろんな意味でびっくりしたんだ。


「そうだな……その頃は。

北野と、というより、北野とオレと田上と、三人でって感じだったよ。」


想像していたとおり、瞬の口から出た女性の名前は、田上さんだった。

この先の話の結末を想像すると、少しだけ胸が痛んだけど、何くわぬ顔で爪先の剥げかけたペディキュアを撫でた。