魅惑のくちびる


「北野さんは確かに仕事できるけど……瞬だって負けないくらい頼りにされてると思うよ。

みんなだって、松原さんは仕事ができる人だって一目置いてるし」


あまりに自分を低評価している瞬が、なんだかいたたまれなくなってとっさにフォローしてみたけど、そんなありきたりな言葉じゃきっと、瞬の心を包むことはできない。


「ハハッ。

オレ、要領だけはいいから、それなりに見えるんだろうな。

でもさ、会社の評価はやっぱり明白だよ。

あいつは異動して、リーダーを務めてる。

会社から買われてる証拠だな。」


……わたしが口をつぐんだのは、それ以上のフォローが見つからなかったからだ。


確かに、雅城には部署異動と同時に得たものがある。

チームリーダーという肩書き。

雅城の年齢では異例だと言われるほど、前例のない出来事だった。

それは、瞬ほど雅城を意識している人ならば、本当に羨ましく輝かしいものだってよく分かるだけに、下手な慰めは傷を深めるだけかもしれない。