魅惑のくちびる


「北野には、入社式の時から負けっぱなしなんだ、オレ」

「……え?」

「あいつさ、入社式で決意表明をやったんだ。

オレら同期の、期待の星だって噂だったよ。

あの甘い顔の割に中身はしっかりしたやつでさ、入ったばっかのころはもの凄くやる気に満ちあふれてて、見てるオレまでなんだか熱くなってくるようなやつだった。」


単なる、話の流れ。

――わかってる。瞬が、雅城の話をし始めたことに、深い意図なんてないんだってこと。


でも、やっぱり冷静ではいられなかった。


落ち着こうとすればするほど、身体の芯が震え、寒気すらしてくる。

思わず、両腕を交差させて自分を抱えた。


「入社式以来、密かにライバルだと思ってたオレは、北野に負けないようにってそればかりを意識してた。

でもさ、かなわないんだよ、あいつには。

今じゃ、完全に追いつけないようなとこにいっちまいやがってさ。

悔しいけど、それが実力なのかと思うと、自分が情けないよ。」