「俺の歌が聴けねえってのか?
何様だ、おらぁあ」

俺が詩織の肩を乱暴に掴んだとき


コンコン…

「飲み物をお持ちしました」

拓也がドアをノックし、入ってくる。

「助けてください!」

詩織が拓也に駆け寄り、
うるうるした目で拓也を見上げる。

「おい、詩織!逃げんじゃねぇよ」

俺が詩織の腕を掴むと

「逃げましょ」

詩織は訳のわからないままの
拓也を引き連れて
部屋を出る。

「待てよ!」

俺は追いかけるふり。

そして二人は店を出て走る。

俺は追いかけるふりをやめて
おとなしくお会計。

「今入られたばかりでは…?」

店員さんにそう言われるだろう。


一方、詩織と拓也は
狭い路地まで逃げてきた。


「はぁ、はぁ
ここまで来れば大丈夫ですよ。
いったい何があったんです?」

拓也はそう言って
詩織の肩を抱くかもしれない。
でもそれはさりげなく回避。

「ごめんなさい、
成り行きで一緒に逃げてもらって。
カレ、怒るとこわくて…」

詩織は長いまつげをふせて
悲しげに言う。