黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□

一歩を踏み込んだ瞬間、先生の頭部がピクリ、と動いた気がした。


…いや、気のせいか…?


さらにもう一歩、慎重に踏み込む。

…シート越しに、上戸先生の横顔がかろうじて見える。

今度は、ピクリとも動いてはいない。


…というより、さっき動いたように感じたのは、バスの揺れのせい…?


俺はそう思い直した。


なぜなら、上戸先生は目を閉じていたから。


……どうやら、俺が二番目に推測した、『単に疲れて寝てしまっている』…が正解だったようだ。


「ふぅ…」


口から、思わず安堵のため息のようなものが漏れる。


…やれやれ。

とんだ迷探偵だったな、俺も、小町屋も…。

それに小町屋の直感も、外れることも当然あるよな…。


胸の中で疲れた笑いをこぼすと、自分が今までとっていた行動がすっかりバカらしくなってしまった。

安心と落胆(?)からすっかり全身の力が抜けきり、無意識に顔を正面に向けた時、それは見えた。







……ガードレール!!!







目の前には、まるで映画館のスクリーンに映されたような夜の山道。

目の前には、急カーブ。


その先に、広めの駐車場みたいな場所が広がっていたけど、そのさらに先は、闇。


しかしそんなことよりも、まずはガードレール。

バスのヘッドライトに黄色く照らし出された、真っ白いガードレール。


その白を照らす黄色の面積が、恐ろしいスピードで拡大されていく。


…今まで何度も車に乗ったことがあるけど、こんなに猛スピードでガードレールに迫っていく光景なんて、見たことがない……!!


「ぁ、あっ……!」


あまりの場面に、『危ない!!』という四文字さえ吐き出すことができない俺の口。


……運転手さんは、いったい何を……!?


そこまで考えた時、



ガタン!



中央線上の突起物(反対車線へのはみ出し防止を目的とした、反射板付きの突起)に、バスの前輪が乗り上げたであろう音と振動が車内に響く。

そのすぐ後、一秒前まで大写しになっていたはずのガードレールが、フロントガラスの真下に潜り込み、


…消えた。


遮蔽物(ガードレール)によって途切れたヘッドライトの光が、一瞬、先の駐車スペースの舗装路を、黄色く照らしだす。


そして──。