そして、

「先生の様子を見に行くの?」

と、ごく小さな声で、真顔で言った。


……。

……こいつも同じことが気になってたのか……。


ほんの僅かに驚きつつ、俺も少しだけ真顔をつくって、小さく頷く。

それを見た小町屋は、

「……そっちはあんたに任せるわ」

また小さくそう言って、顔を委員長や夏樹のほうへと戻す。


「…あ! あたしと綾ちんはお昼にねー?
新潟名物コシヒカリソフトを…」


顔を戻した途端、数秒前となんら変わらない、無邪気な笑顔で会話を再開する小町屋。


……侮れないな、小町屋は……。


素直にそう思った。


実は小町屋には、鋭い観察力というか、人より優れた直感みたいなものがある。

本人も自覚しているかもしれないが、今までにもそれを裏付けるような出来事がよくあった。

だから今みたいに、こいつが真顔で意見した時や、『なんとなく気になる…』とさりげなく言った時には、大抵事件やらその真相やら原因やら、とにかく何かしらがあった。


……もしかして、今回も……?


一瞬、背中に冷たいものが走り抜けるのを感じた。

…と同時に、気のせいかもしれないが、バスの振動が一回…微かにぶれた気がした。


俺は慎重に、さらに一歩を進める。


…先生の座席は、もう目の前だ…。