◆上戸先生のことだった。


俺は、委員長の美麗と言ってもいい横顔に、視線を向けた。

彼女は、普段見せないような穏やかな表情で、座席の横に立つ小町屋や司と、控えめに談笑している。


…そう。

彼女はこの件を、不問にしてくれた。

上戸先生も、確かに優しい先生だ。


…が。


規律を乱すような行為に対して、見て見ぬふりをするような人じゃなかった…。

少なくとも俺の知っている上戸先生は、生徒が勝手な行動を起こしたら、やんわりとでも一応は注意をする…。

…そしてその上戸先生はと言えば、バスの助手席から1つ後ろの席……つまりは、ここから目と鼻の先の距離にいる…。


「あはは、夏樹くんたらそれは強引すぎだよ♪」

「なにゆうてん裕也?
新潟ゆうたらカニバーガーや! そんでカニゆうたら、うちの出身大阪やろが!」


楽しそうな、裕也と夏樹の話し声。


俺は現在、委員長の1つ後ろの席のちょうど真横の通路に立っているわけだが、当たり前のことだが、当然ここにもその声は届いている。

さらにひとつ後ろのシートに顔を向ければ、やっぱりと言うか、座席に座ったクラスの男子が、うるさそうにこちらを見ていた。

俺はそのクラスメイトに苦笑いを返し、右手を顔の前で立てて謝る仕草をした。