今すぐにでも吉良ノート(恨み手帳)に “ 小町屋志穂 ” と書き込んでやりたい気分だったが、慌てる俺たちの予想に大きく反し、 委員長はにこやかな表情で言った。


「大丈夫、わかってるから」


そして今度は、夏樹のほうに例の涼しげな表情を向ける。


「白川くんが少し具合が悪くなったみたい。
だから仲のいい涼瀬くんに相談するためにここまできたの。
…そういうこと」


その言葉に、きょとんとする夏樹。

彼女は、チラッとこちらに視線を送ったあと、続ける。


「それに今日は、せっかくの楽しい修学旅行だもの」


……俺はその言葉を聞いた瞬間、今まで彼女に抱いていたイメージが壊れた気がした。


固っくるしくて、近寄りがたいというイメージが。

…なんだか、彼女の本当の姿を知った気がした。


そういえば、以前、聞いた噂を思い出した。

ある時期、クラスで孤立していた裕也を救うために、非道徳的な行動を起こしてまで、彼女が裕也を助けたっていう噂。

…具体的なことは、よく知らないけど。


……彼女にとって裕也は、少し、特別な存在なのかもしれない……。


その裕也のほうを見れば、もう一度丁寧に委員長にお礼を言っている。

ひとしきりそれが終わると、なぜか気まずいような表情で、俺の方に向き直った。

そのまま、司と小町屋の脇を抜けて、俺に一歩歩み寄る。