黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□

なぜなら、



ビュオンッ──



まるで打球が耳元を通過したのではないかと思えるような、空を切り裂く音がした直後、




ガゴオオォォォォォッッ!!




…良雄の右拳によって、後方にぶっ飛ばされていたから。


左頬に、今までに体感したことのないような衝撃。

それは本当に、左頬が弾け飛んでしまったのではないかと思えるほど、凄まじい衝撃だった。


と同時に、宙を浮く感覚がわずかにしたあと、



ズシャアァッ。



…バスの通路に、勢いよく背中が叩きつけられる。


そして一時の静寂──。


それはもう、本当に、バスの中から走行音と振動の、両方の音以外が消えてしまったみたいな、静寂。


その静寂、一秒後。



「な、七夜っ……!!」



昔何度も聞いた、懐かしいあの声が聞こえた──。


その声が引き金となり、今度はさっきまでの静寂が嘘だったかのように、喧騒がはじまる。


『うわっ…俺、人が吹っ飛ぶとこはじめて見……』

『せ、先生っ…! 七夜くんが……!』

『な、何っ!? 今そこで、何が起……』

『竜崎さんに逆らうから、こんな目に……』

『吉良…っ!! だからあたしが……!』

『こ、こいつ、口から血が垂れてるけど、大丈……』

『…良雄、そこまでにしておけ。』



……それはまるで、都心の雑踏のように。