黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□

◆左手による攻撃だと予測した。


根拠なんてない。

野生の直感とか第六感とか、そんな類のやつ。


『なんとなくだけど、左手による攻撃がきそう』


…そう感じただけ。

しかしそう感じたからには、己の勘を無視することなんてできない。


俺は眼前にまで迫った、巨大にも見える良雄の、左手部分に意識を収束する。

無論、万が一のために、他の部分にも漠然とだが、意識を削いではいる。


…が、あくまで本命は、左手による攻撃。


そして左手、もしくはその他の部分が少しでも攻撃動作をはじめたら、全力で回避する…!

さらに回避に成功した後、良雄に隙ができれば、カウンターを食らわせてやる…!


凝縮した一瞬の中で、その指令を、全身の部位に染み渡らせる。

良雄の左手のわずかな動きに、集中する。


しかし。


完全に射程範囲に入っているはずなのに…右手の予備動作まで直前に済ませているはずなのに……良雄の左手に、攻撃の予兆はない。


…というよりもむしろ。


というよりもむしろ、良雄の左手は、“ 他の部分に反動をつけるための動きをしている ” ような……


そこまで考えが至り、直後。

全身の毛穴から冷や汗が吹き出すほどの焦りを感じたのは、きっと一秒にも満たない時間だった。