黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□

……前方に視線を戻す。


俺は臨戦態勢を維持したまま、良雄を見据えた。

そして奴の構えを観察しつつ、戦法を考える。


…奴は、左足を半歩前に踏み出し、体の左半分をこちらに向けた、半身の態勢をとっている。

もちろん、顔だけはしっかりとこちらを向いている。(正対している。)

右の拳は、あごから拳ひとつ分下げた位置に。

左拳は、まるで見せつけるかのように、左足太もも側面に沿わせ、こちらから見た前面に下がっている。


テレビとかで見たことのある、格闘技の選手がとっているような……いや、それを若干崩したような構えに見えた。

左手が、左足側面ではなく、こちらに緩く突き出されていれば、テレビで見覚えのある構えに似ている…気がする。

たぶん、主流な何かの格闘技(対戦格闘ゲームとかで見た、マーシャルアーツあたり?)と、我流の喧嘩技法をミックスしたような、無形の格闘スタイルなんだと思う。


「……おいおい?
てめーからケンカふっかけといて受け身かぁ?
そんならぁ…
…俺の方から先にぃ…っ!」


必死に観察しようとする俺を尻目に、奴が、先に動き出そうと左足を浮かせた。

俺はごく限られた時間の中で、精一杯、勝つための情報分析を行う。


・相手は、リーチや体格差で圧倒的にこちらよりも有利な、良雄。

・しかもケンカ慣れもしているらしく、構えは我流(だと勝手に判断)ながら板についている感じ。 何より暴力行為に対する躊躇が一切感じられない。

・一方の俺は、ケンカの経験なんて0に等しく、こと現在に至っては、全身の筋肉が緊張のため固まりかけている状態。

・そして最後に、ここは幅50cm程度の、バスの中央通路。


…そんな現状を全て加味して導き出される、最善の一手は……!


各々の座席から、事の成り行きを見守るクラスメイトたちが、張り詰めた空気を漂わせる中、

俺は……


【選択】

A:良雄の一撃を待って、カウンターを狙うことにした。
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B:良雄の先手を取り、先制攻撃を仕掛けることにした。
→【129】