黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□

俺は思った。


『…相手がいくら常識の通用しない野獣みたいなヤツだからって、ただ臆したまま、黙って言いなりになんてなるもんか…!!』


…と、そう。


しかし心の中で強がってはみても、構えて握った拳の中は、大量の汗で濡れている…。

俺に今、勇気と戦意を与え続けているのは、


『身体がどんな酷い目に遭おうとも、プライドだけは絶対に守る……!!』


そんな信念と、意地だけだった。

胸の中でその呪文を唱え、自分自身を鼓舞する。


最中、あからさまな誰かからの視線を感じた。

…いや、誰かではなく、誰か “ たち ” 、だ。


良雄からは決して注意を反らさず、目だけを小さく左右に走らせる。


……今になってようやく気づいたが、俺と良雄には、幾つかの視線が集まっていた。


視線の主は、周囲のシートに座ったクラスメイトたち。

さっきまでは、様子を伺いつつも見て見ぬふりをしていたのに、流石にこんな状況にまで発展してしまっては、そうもいかなくなったらしい。

この事態を知っている一部の生徒たちだけが、緊迫した空気を漂わせながら、座席から、この騒動の顛末(てんまつ)を見守っている。


…それでも誰一人として、止めることも先生に知らせることも、しなかったけど。


…まあ、無理もない。

なにせこれは、俺が勝手に起こしたトラブルなんだ。

それに下手な真似をした日には、この “ 質の悪いチンピラ ” みたいな奴に、この先いつまで絡まれ続けるかわかったものじゃない。