黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□

◆全身の筋肉は恐怖と緊張でガチガチに固まっていたが、平均よりも優れた自分の身体能力を信じて、無謀にも静かにファイティングポーズをとった。


「………。」


それを見た良雄は、一瞬、呆気にとられたように、ポカン…と口を開いた。

直後良雄は、怒るでも苛立つでもなく、笑った。

心の底から本当におかしそうに、笑った。


「…へへ、へへへへへへ…!

…この俺に対してぇ、こんなわかりやすい形で『NO』って示してくれたのはよぉ…
…てめーが初めてだ…」


良雄は続ける。


「お前のことが少しだけ気に入ったぜぇ? 吉良ぁ…。

……だが」


そこで言葉を止め、棒立ちの状態から、右腕だけを水平の高さに持ち上げる。

天井を向いた、緩く握った右の拳を、こちらに向かって突き出した形だ。

その右手から人差し指だけをほどき、俺の顔を指差す。


「……勇気と無謀をはき違える奴ぁ…早死にするって知らなかったのか…?」


そう言って、俺の顔を差した人差し指を、クイクイ、と二回、自らを差すように折り曲げた。

……所謂、挑発というやつだ。


その典型的な(?)挑発ポーズを見て、今良雄が喋ってみせた決め台詞(?)とは別に、

『Hey! come on! come on!』

という洋式の台詞が、脳内で再生された。


奴は一回ニヤリと笑い、こちらに突き出した右手をスッ…と下ろす。

そして真剣な表情をつくり直すと、流れるような動作で、全身を戦闘態勢へと移行させた。