黒の森と、赤の……。/ ■恋愛シミュレーションゲーム□

頬は、その衝撃音に跳ね飛ばされたかのように後ろにふっ飛び、それに牽引されるような形で、俺の体や手足が宙に浮いた。

揺れながら尾を引く視界に、バス側面の窓が映る。

その窓の外に見えた、ガードレールか何かに書かれたらしき、薄明るく光る赤い文字が、なぜだか幻想的に俺の目には映った。

黒の中に浮かぶ、その幻想的な赤い蛍光色は、すぐにバスの後方へと流れ、そして消えた。



……ズシャアァッ!



……次に自分が感じたのは、何か重い物が入った布袋が、無理やりに地面を滑走したような、そんな地滑りのような音。

それと、全身に走った、叩きつけられるような鈍い衝撃だった。



「………七夜っ!!!」



近くで、それとも遠くで……自分の名前を呼ぶ、懐かしい声が聞こえた。

…気がした。

脳みそを乱暴にシェイクされたかのように、意識が混濁した今の自分には、『気がした』…としか表現できなかった。


今自分にわかっていることは、

1.頬を中心とした顔の左側全体に、腫れるような熱と痺れと鈍痛が、駆け巡っていること。

2.その鈍痛の発生源……つまり左頬の内側に、鉄を噛んだ時のような味が広がりはじめていること。
(おそらくは口内が出血しているんだ、たぶん)

3.しかし骨の折れるような派手な音がした割には、頬骨や首の骨には、おそらくそこまで深刻なダメージはいっていないという こと。

4.これもおそらくたが、今現在自分が、バスの中央通路で仰向けに倒れているであろうこと。
(その証拠に、つぶっていたまぶたを薄く開くと、バスの天井と、その中央に羅列していたはずのオレンジ色の照明が、ぼんやりと見えた)

そして、


5.良雄に顔面をぶん殴られたこと。